「ジャズを聴く」 I Got Rhythm(アイ・ガット・リズム) ジョージ・ガーシュウィン作曲 (1930年)

 

 『パクる』という言葉があります。音楽の場合、コード進行やメロディーをどこかから拝借して、そのまま利用したり、改変して創作する事を示しますが(※注 やり方によっては言うまでもなく法に触れますので、決して推奨されるべきものではありません)、実はこの手法はクラシックの時代から行われていました。世俗(民衆)の音楽を教会音楽として用いたり、大作曲家の時代にも数多く見られ、これらは音楽学の世界では、コントラファクトゥーア、コントラファクトゥール、コントラファクトゥム(すべて同じ意)などと呼ばれます。
 ジャズの世界では、英語でコントラファクト(Contrafact)と呼ばれ、本日紹介するアイ・ガット・リズム(I Got Rhythm)は、そのコード進行が様々な楽曲に流用されてきました。曲名からこのコード進行のことを『リズム・チェンジ(rhythm changes)』と呼びます。チャーリー・パーカーらが牽引したモダンジャズの源流「ビ・バップ」の時代に、特にこの手法が多用されました。同一のコード進行であっても、テンポを高速にしたりメカニカルで抽象化された旋律に置き換えて、新たな創作を行ったのでした。


ジャズにおけるコントラファクトの例

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原曲  コントラファクト
   
Exactly Like You(1930年)  Take the A Train(1939年)
Cherokee(1938年)

KOKO(1945年) 

 ※チャーリー・パーカー

How High the Moon(1940年) 

Ornithology(1946年) 

 ※チャーリー・パーカー

All The Things You Are(1939年)

 Bird of Paradise(1947年) 

 ※チャーリー・パーカー

(Back Home Again in) Indiana(1917年)

Donna Lee(1947年) 

 ※チャーリー・パーカー

So What(1959年)

Impressions(1961年)          

など

 チャーリー・パーカーはリズム・チェンジでもコントラファクト作品を残しており、ディジー・ガレスピーと共作でアンソロポロジー(Anthropology)を1945年に作曲しています。


【I Got Rhythm】
 1930年のブロードウェイミュージカル「ガール・クレイジー」の為にジョージ・ガーシュウィンが作曲した挿入歌。他にもBut Not For Meもこの作品の中で使用されています。1943年には映画化もされました。作詞はアイラ・ガーシュウィン(ジョージの兄)。

 

【リズム・チェンジの魅力】
 ジャムセッションなどで度々演奏され、ジャズ演奏の初心者が初期に取り組むべき曲としても知られている「リズム・チェンジ」には、幾つかの特徴があります。
(1)形式はAABA(各8小節 合計32小節)
(2)A部分は循環コード(ターンラウンド)と呼ばれるもので、一見複雑に動いているものの、大きく一つのコードとして捉えられる(同様のものにブルース進行がある。通称「一発コード」に類する進行)。この曲はBb(ビーフラットメジャー=変ロ長調)。リズムチェンジを日本では『循環』と呼ぶ演奏者も多い。
(3)B部分はドミナント進行(五度づつ下降して行く)
(4)Bbという調は、管楽器にとっては非常に演奏しやすい。トランペット、テナーサックス、クラリネットはBb管(ベー管)の移調楽器で、これらの楽器だと『調号が無しになる』。

【歌詞】

(ヴァース 序章)意訳:ため息をつかなければ人生は輝く。お金なんて重要じゃない。鳥は歌い私もご機嫌。私が手に入れたものを教えてあげる。


Days can be sunny with never a sigh

Don't need what money can buy
Birds in the trees sing their dayful of songs

Why shouldn't we sing along?

I'm chipper all the day

Happy with my lot
How do I get that way?

Look at what I've got

 

(本編)意訳:リズムも音楽も恋人も星明かりも甘い夢もみんな手に入れた!他に何が必要?


I got rhythm, I got music, I got my man

Who could ask for anything more?
I've got daisies in green pastures

I've got my man Who could ask for anything more?
Old man trouble I don't mind him

You won't find him 'round my door

I've got starlight

I've got sweet dreams

I've got my man
Who could ask for anything more?


【多様な録音の紹介】

ALL STARS ’44「メトロポリタンオペラハウスジャムセッション」(1944年1/18録音LPレコード)
 第二次世界大戦中、録音ストが起こります(以前「A列車で行こう」でも紹介)。米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)がラジオ等放送に関する使用料を大幅に値上げします(ラジオ局がASCAPの曲の使用量(楽曲数)に関わらず、収入に対し定率の使用料を払わなくてはならないというもの)。これにより40年代初期のジャズの録音数は大幅に減ります。しかし国の政策で軍用のV-DISKというものが作成されました。兵士の慰問の為の音源制作で音楽家の仕事を守ったのです。
 紹介するこのレコードは、その時期にV-DISK用の音源として録音された貴重なライブ音源です。
ジャズでは『ビ・バップ』というモダンジャズのスタイルが出て来た時期ですが、伝統的なスタイル(ディキシーランドジャズ)と混在している所が面白い。

ソロ順:レッド・ノーヴォ(xylophone)→ アート・テイタム(Piano)→ ルイ・アームストロング(Tp)→ コールマン・ホーキンス(T.Sax)→ バーニィ・ビガード(Cla) → ジャック・テイガーデン(Tb)→ ロイ・エルドリッヂ(Tp)

 

「International Jam Seesion」Charlie Parker/Clifford Brown/Phil Woods(1950年録音LPレコード)
 50年代、モダンジャズ『ビ・バップ』のスタイルは米国にとどまらず、欧州や日本などに広まりました。このLPには、


1950年11/22

チャーリー・パーカー(sax)(スウェーデン)


1953年11/12

クリフォード・ブラウン(Trumpet)(デンマーク コペンハーゲン)


1957年8/12

フィル・ウッズ(sax)(ニューヨーク)


の3つの『ジャムセッション』が収録されています。いずれもレコード会社が録音したものでは無く、ファンが持ち込んだテープレコーダーで録音された、俗に言う「ブートレグ(Bootleg)版」です。今回はパーカーのセッションの1曲目「アンソロポロジー(リズムチェンジのコントラファクト)」を聴いてみましょう。


チャーリー・パーカー(As)

ロルフ・エリクソン(Tp)

ゴスター・セセリウス(Pf)
ソーレ・ヤダビイ(B)

ジャック・ノーレン(Ds)

 

小野リサ「Cheek To Cheek (Jazz Standards from RIO)」(2009年デジタル録音)
 日本が誇るボサノバ歌手小野リサのバージョン。アルバムのサブタイトルからも分かるようにジャズスタンダードを、ブラジル音楽の文脈でアレンジした意欲作です。時々拍子が七拍子になる所が面白い。以前『イパネマの娘』の会で紹介した、バチーダ奏法というアコースティックギターの奏法(左側から聴こえます)、ささやく様な歌声、などボッサノーバ(BossaNova)の特徴を醸し出しています。

 

マイルス・デイビス「クールの誕生(Birth of The Cool)」(1949-50年録音,LPレコード)
 チャーリー・パーカーのグループで活動していた、マイルス・デイビス(Tp)、マックス・ローチ(Dr)は、1948年にバンドを脱退します。チャーリー・パーカーのドラッグ等の破天荒な人生に愛想をつかし、限界を感じ別の道を歩む事のしたのです。(と書くと健全な2人が脱退したようですが、マイルスはすでに師と仰ぐチャーリー・パーカーから誘いを受けてドラッグにどっぷり手を染めていました)。マイルスはライブ後、パーカーと喧嘩し決別します。
 1949年、マイルス・デイビスは自身のノネット(9人編成)を結成します。メンバーは、


Miles Davis (Tp) 

Mike Zwerin (Tb)

Bill Barber (tuba)

Junior Collins (French horn)

Gerry Mulligan (b.sax)

Lee Konitz (a.sax)  
John Lewis (Pf)

Al McKibbon (B)

Max Roach (Dr) 


『ビ・バップ』がソロ中心なのに対し、アンサンブルを重視したサウンド。1曲目のMOVEはリズムチェンジのコントラファクトです。チューバやホルンといったオーケストラ楽器も含める事で組織的サウンドを展開しています。

 

ハンプトン・ホーズ (Hampton Hawes) 「Vol.1 The Trio」(1955年録音,70年日本版LPレコード)
 ハンプトン・ホーズ(1928-1977)はロスアンゼルス生まれの黒人ピアニスト。10代からプロ活動を開始し、1952年から54年に軍人として日本に駐留し、穐吉敏子や渡辺貞夫らとも交流があった。当時日本にも伝わっていた「ビ・バップ」のテクニカルなスタイルを持ち味としたピアニスト。LPのライナーによると、録音には1954年製造のAKG C-12(真空管マイクの名器※現在でも新品で1本100万円!)が使用された。

 

八木正生「セロニアス・モンクを弾く」(1960年7/13,14録音LPレコード)
 あしたのジョーの音楽を担当した事でも知られている、八木正生(Pf)のセロニアス・モンク特集アルバム。メンバーの中にはバークリー留学前の渡辺貞夫氏がいます。八木氏の演奏も素晴らしいのですが、「ナベサダ」が当時殆どチャーリー・パーカーだった(!)ことを証明する様な演奏が聴けます。曲は「リズマニング(RHYTHM -A-NING)」というモンク作曲のコントラファクトで、非常に複雑なリズム構造を持ったテーマの曲です。録音は東京文京公会堂(大変音響が良く人気で稼働率が高かった)でステレオ録音。


八木正生(Pf)

渡辺貞夫(As)

中野彰(Tp)

原田政長(B)

田畑貞一(Dr)


Yellowjackets「Mirage a Trois」(1983年8月デジタル録音)
 1980年代を代表するアメリカのフュージョングループ「イエロー・ジャケッツ」。L.A.で1977年に結成され、様々な音楽の要素を『融合(フュージョン)』したスタイルは、日本のフュージョンシーンにも影響を与えました。このバージョンは80年代らしい特徴が挙げられます。(1)カチカチとしたドラムのノリ(2)ベースのスラップ奏法(3)ウインドシンセサイザー(=リリコン)を全面にフィーチャー。このアルバムは、1984年のグラミー賞(ジャズ・フュージョン部門)を受賞しています。

 

Russell Ferrante :keyboards    

Jimmy Haslip :E.bass    

Ricky Lawson - drums
Richard Elliot : lyricon, sax 

Robben Ford :guitar